あの日の青に、君だけがいない

「りこ?」


今度は柚が私の名前を呼んだ。


「動かないで」


振り返るそぶりをむせる柚に、私はそう言った。


まだ、目じりから耳の方へ流れ落ちる熱い雫の言い訳が考えられていなかった。


「今、柚の背中に何個芝がついてるか数えてるから」


「…そんなについてるのかよ」


「ついてるよいっぱい。柚の服が緑になるくらい」


柚の広い背中が揺れる。


ししし、という笑い声。


もう私のものじゃない、笑い声。


青の中で、何度も駆けた風だけが私の頭を撫でてくれた。


柚はただ、青を眺め続けた。