【空希side】
ダムダムダム、キュッ…。
ドリブルの音とバッシュの擦れる音が蒸し暑い体育館に響き渡る。
パシュ!
先生が打ったシュートは綺麗な弧を描いてゴールに吸い込まれていった。
(綺麗なシュート…。)
「よし練習終わり!片づけ!」
『はい!』
「二宮、ちょっと来い!」
『は、はい!』
なんだろ…。
私は二宮空希(にのみやあき)
顧問の音田(おんだ)先生は、イケメンで人気だ。でも、魔王みたいにいじわる。そんなとこも私は大好きだ。
『なんですか…?』
「今日が最後の練習だから、これ。」
『お手紙!!ありがとうございます…。』
私たちは中3で最後の大会、あと少しで県大というところで負けてしまった。
思い出すと涙が出てきてしまう。
ポン。
『へ?』
「空希、泣くなよ」
気づくと先生の大きな手が私の頭を撫でていた。
『へへ。泣いてないですよぉ』
下の名前で呼ぶとかズルいよ。

あれから1週間部活も終わり、先生とは関わることが無くなった。
唯一体育の授業が私の楽しみだった。
体育が終わると…
「あ~俺もう少しで誕生日だなぁ」
(ん?私に言ってる?)
『…』
「誰かプレゼントくれないかなぁ?」
(え?私?)
『えっと…?』
「空希ちゃん、なんかくれんのかな?笑」
『何が欲しいものあるんですか?笑』
「欲しいもの?ん~空希ちゃん!」
『…///』
『えっと、じゃあお菓子でもあげます///』
「ぇ?だから空希ちゃんだって!」
『お菓子!』
「空希ちゃん!」
「ふふっ笑。返すの上手くなったな」
『先生のイジワルには慣れました笑』
「もし…ホンキだったら?」
『え?何か言いました?』
「いや、なんでもないよ。」
「あ、授業始まっちゃう、じゃあ!」
タッタッタッ。
【音田先生side】
「本気だったらなんて、言えねぇ。」
(でも、あいつは異動のこと知らないよな。)
【空希side】
『わ~授業終わったぁ!かーえろっと。』
夕焼けが綺麗だ。
チリンチリン。
(ん?)
『え?先生!?』
「おぉー!二宮か。…言いたいことがある。」
『へ?なんですか!』
「急な異動になった…。」
『…え?嘘だよね。先生?!』
「しかも県外だ。」
『あのね、私ね先生のこと…!』
「じゃあそういうことだから!」
私の言葉を遮るように先生は言った。
「二宮は真面目で優しくて素直で…。だから、大丈夫だ!これからも頑張れよ。」
『先生?』
「俺、生徒を恋愛対象としては見られない」
『…。そうですよね!なんか、すみません!先生カッコイイからつい!あはははっ…。』
ポロポロ。
ダメだ涙が止まんないよ。
「泣かないで?」
ズルいよ先生。優しすぎるよ。
ちゃんとお礼言わなきゃ。
『今までありがとうございましたっ。…大好きでした。じゃあ。』
「ちょっ!待てっ!空希。」
もう先生の顔を見るのが辛くて気づいたら走り出していた。
『くっうっっうっ…。ハァ。ハァハァ。』
涙が溢れ出てくる。
『もっと一緒にいたかったなぁ。』
「ハァハァハァ。待てって。お前走んの速すぎ」
『先生…』
なんで追いかけてきちゃうの?
もう、忘れたいのに。
「お前と出逢えて良かった。俺もお前のことは好きだ。でも、それは生徒として…だ。」
(知ってるよそんなの。)
「そう思ってた。」
(…?)
「でも、お前と話すうちに異性として意識するようになった。でも、ダメなんだ。俺は教師だから。お前を幸せに出来る自信も無い。だから、俺より良い人を見つけて欲しい。」
『私は先生がいいの。先生といられるこたが私にとっての幸せなの。』
「ごめん。空希。ごめんな。」
『先生…。』
気づけば2人とも泣いていた。
「最後に1度だけ抱きしめさせて。」
『はい。』
ギュッ。
暖かくて大きい体が私を覆う。
風が心地よくて。
夏の夜空が優しく2人を包み込む。
何分たっただろうか。
この時間は永遠なんじゃないかと思うほど長く感じた。
「もうこんな時間か…。」
『先生。明日からもういないの?』
「準備とか色々あるから、学校には行けないかもな…。」
『そっか…。』
『私もね、先生に出逢えて幸せだよ。絶対先生より良い人見つけるからね笑』
「あぁ。ま、俺より良い人とかそういないだろうけどな笑笑」
『いっぱいいますー笑笑』
「じゃあ、またな…。」
『またいつか会える?』
「 あぁ、いつか、な。」
『分かった。ありがとう。バイバイ。先生。』

次の日、やっぱり先生は来なかった。当たり前の日々が過ぎていくけど、わたしの心は何かが足りなくて…。でも、それでも私は歩いていかなくちゃ。先生。本当に大好きだったよ。さよなら。
【音田先生side】
飛行機に揺られながら、空を見る。
「これで良かったんだよな。幸せになれよ。」
「よし!俺も頑張らないとだ!」

別々の道を歩む2人を見守るように夏の太陽は微笑んでいた。