3月のある日、中学3年生の私は受験票を握りしめて友達と第一志望の高校へ向かっていた。
「紗由梨〜怖いよぉ」
「なーに今さら言ってるの。私も夏海も全力出し切
ったんだもん、きっと大丈夫だよ!」
「だよねだよね!」
緊張と恐怖を胸に抱きながら、私たちは当然2人で受かるだろうと思っていた。信じていた。
結果を見るまでは…

「…あった…!あったよ!紗由梨、私の番号があった!」
私は自分の番号を見つけると、すぐに紗由梨に報告した。紗由梨の結果も見ずに、はしゃいでしまった。
「ねぇ、紗由梨は?紗由梨はどうだった?」
そう言って顔を見ると、紗由梨の顔は真っ青だった。
「…ない、ない、なんでないの?」
声が震えている。まさかと思った。
「え、そんなわけないじゃんwもっとよく見てみて
よ。」
私も紗由梨の番号(192)を探した。
「190…191…193……」
無い。確かに無い。
それから何度も見返した。
それでも192番が視界に入ることはなかった。
「どうして。どうしてよ…」
「さ、紗由梨?」
「どうしてあんたよりも頭が良い私が落ちるのよ」
「紗由梨、落ち着いて…」
「黙れ!模試の時だって私はA判定で、あんたはBだ
った。おかしいじゃん!」
確かにそうだ。私の方が頭は悪かった。
それなのに、私は受かって彼女は落ちた。
「…裏切り者、あんたは裏切り者よ!今まで仲良くしてやってたのに、恩を仇で返すのね。…最っ低。」
そう言い捨てて駅に向い遠ざかって行く紗由梨を見て、私は心が締め付けられた。

紗由梨が声を抑えて泣いた。
私を恨むように睨みながら。
本当は追いかけて行きたかった。
追いかけて、ごめんって言いたかった。
でも、出来なかった。足が動かなかったんだ。
私のせいだ、そう思うと息が出来なくなる。
私が泣かせた、そう思うと涙が溢れてくる。
これは何の涙なんだろうか。
謝罪?後悔?まさか、合格への喜び?
私は黒く染まってしまったのだろうか。
友達は落ちて泣いていたのに、私はそれを横目で見ながら喜んでいたのだろうか。
そんな事を考えると、どんどん自分が分からなくなって、嫌いになっていった。
まるで、闇に飲まれるように一瞬にして。