お手洗いに行き、廊下の椅子で少し休憩をしていた。

桃田さんに買ってもらったヒールはとても素敵なんだけど、私にはまだ早いみたい。

靴づれが出来てしまっている。

絆創膏を持ってきていて良かったな。

「貼ってあげるよ」

え?
鞄から絆創膏を取り出して貼ろうとしている私の頭の上で声が聞こえて、顔を上げた。

しゃがみ込んで私から絆創膏を取った目の前の人は、知られない人だった。

「あ、あの!自分でしますっ」

「いいから」

断ったのにこの知られない人は私のかかとに絆創膏を貼ってくれて、隣へと座ってきた。

「ありがとうございました」

誰なんだろう。
きっと、桃田さんの友人のひとりだよね。

さっき紹介された人の中にはいなかったけど。

「桃田の彼女だよね?俺、カヤノ!よろしくね」

「和泉華です!よ、よろしくお願いします」

「華ちゃん、芸能界とか興味ない?」

え?芸能界?
興味ないって言うか、雲の上の世界って感じで考えたこともない。

それに、人前もあまり得意じゃないし。

「高校生なんだよね?どこの事務所とかも所属してない?」

食い気味に聞いてこられて困ってしまう。

「俺、芸能事務所の社長してて、今度一度会いに来てよ」

そう言って、名刺を渡される。
名刺には本当にカヤノプロダクションって書いてある。


「華ちゃん、何してるの?」
カヤノさんと話していると、桃田さんがやって来た。

「足に絆創膏貼って、スカウトしてただけだよ」

「足?」

桃田さんが私の足に視線を向ける。
ヒールを履いて靴づれが出来ちゃうなんて子どもだよね。

「華が世話かけて、悪かったね」
カヤノさんに向かって、桃田さんはそう言う。

私は桃田さんの久しぶりの呼び捨て呼びに、胸がキュンとなる。

「華ちゃん、連絡してね!待ってるからね」
カヤノさんはそう言って、会場へと戻って行った。

「桃田さん、私たちも戻りましょう」

「帰ろうか」

え?まだ同窓会は終わっていないのに。

「足、痛むでしょ?」

「私なら大丈夫です」

確かに痛むけど絆創膏も貼ったし。
それに、桃田さんの同窓会なのに、私のせいで帰らせたくない。

「俺が大丈夫じゃないかも。カヤノに足触らせるなんて隙がありすぎだよ」

「ごめんなさい」

そうだよね。
知らない人に足を触らせるなんて。