「ごめんね。つらい思いをさせて」
やっぱりこの優しい声は桃田さんだ。

顔を見なくったってわかる。

大好きな人の温もり。

大好きな人の声。

桃田さんは握っていない方の手で、溢れ流れる涙を拭うように、私に触れてくる。

また夢を見ているんだろうか?

ここは沖縄なのに、東京にいるはずの桃田さんがいるわけがないよね。

不安になり目の上に乗せている手を退けて、桃田さんが居るのか確認した。

涙のせいで滲んで見えるけど、私の顔を見つめてくれている桃田さんがいた。

「夢じゃなかった…」

目蓋の裏に映る桃田さんでも、頭にいる桃田さんでもない。

ちゃんと私の目の前に桃田さんがいてくれる。

「桃田さんがいてくれる…」

「そんな風に言われたら、俺は華ちゃんを手離せなくなるよ」

涙を拭ってくれていた手で、私の頬に優しく触れる。

私はその手に自分の手を重ねた。

「もう手離すのはやめる。華ちゃんの隣で一生許しを乞うよ」

「ごめんなさい!許してもらわないといけないのは私の方です」

桃田さんの手を掴めば、桃田さんに仕事や地位を手離させてしまうかもしれないのに。

だけど、離れているなんて出来なくて、本当に桃田さんの手を掴んでいいのかわからない。

「どうして華ちゃんが謝るの?悪いのは全部俺でしょ。俺がいい加減なことをしてきたから、華ちゃんが俺のこと嫌になるのは当然だよ」

「違うんです。桃田さんのことが嫌なったんじゃないんです」

桃田さんと離れられないなら、アヤミンさんとのことを話すしかない。

一緒にいたいなら立ち向かうしかないんだ。

あの時は別れるのが最適だと思った。

だけど別れてみて、それだけは出来ないってわかった。


私は桃田さんにアヤミンさんとの事を話した。
抱き合っていた写真をマスコミに流されてしまう話も全て話した。