「眠れないんですか?」

「はい。昼間はしゃぎすぎたみたいで」

マキノさんに桃田さんの事を聞きたいのに聞けない。

桃田さんはどう過ごしているんだろう?
きっと、仕事で忙しくしてるよね。

アヤミンさんと付き合ったんだろうか?

私にそんなことを聞く資格なんてないよね。

「あ、あの…」

「はい」  

聞いたって何も出来ないけど、聞かずにはいられない。

「桃田さんは、お元気ですか?」

「一応、仕事はこなしてますが、抜け殻のようですよ。正直見ていられないほどです」

マキノさんに聞いたのは自分なのに、胸が締め付けられる。

「気になりますか?」

「そんな資格ないですよね」

桃田さんを守るためだと納得したはずだったのにな。

会いたくて、好きすぎてたまらない。

「そんな事ないですよ」



飲み物を買って部屋に戻ろうとマキノさんと歩いていると、アヤミンさんが男の人に支えられて歩いていた。

私たちには気づかず通り過ぎて、エレベーターに乗り込んだ瞬間、男の人とキスをした。

「変なもの見ちゃいましたね」

マキノさんは私と違い落ち着いている。

桃田さんと付き合うって言っていたのに、どうして他の人とキスなんかしてるの。

あの男の人は誰?

今まで感じたことのない気持ちに襲われた。


部屋に帰り静かに布団の中に入り眠ろうとしたけど、アヤミンさんの事が頭から離れない。

モヤモヤして、頭の中はパニック状態で、結局一睡もできないまま朝を迎えた。

帰り支度を済ませ部屋を出て、集合場所へ行こうと階段を降りていると目の前が真っ白になった。




『……華ちゃん。』
桃田さんの声が聞こえる。

そして、手はギュッと握られていて、桃田さんの温もりを感じる。

夢?夢ならずっと見ていたい。

ガチャンと扉の閉まる音が聞こえて私は夢から覚めた。

「華さん、大丈夫ですか?」

「…桃田さんは?」

「社長はいません」

やっぱり夢だったんだ。
もしかしたら、夢じゃなく桃田さんがいてくれたんじゃないかと思ってしまった。

桃田さんがいないとわかると、夢から覚めた気分だった。