「キムラ君、本当にありがとうございました」

「まだ手震えてるじゃん」

そう言って、キムラ君は私の手を握る。

いつも買い物や繁華街に遊びに行く時は、セリナや友達ど一緒だった。
だから、ナンパやスカウトに声をかけられるとき1人だった事がなかったから、今日は本当に心細かった。

だけど、いつまでもこんなんじゃ駄目だよね。

水着だって自分で選べなくて、店員さんに選んでもらったし。

「ほんと、私ってダメダメですよね」

「そんな事ないよ」

…え?
手を握っていたキムラ君に抱き寄せられた。

キムラ君…どうしたのかな。

「華ちゃんは優しいし思いやりもあるし、全然ダメダメじゃないよ」

「き、キムラ君?」

キムラ君の腕から離れようともがくけど、全然離れられない。

「あんな年上の彼氏やめて俺にしたら?」

「は、離して」

「忙しい彼氏と違って、俺ならいつも一緒にいてあげれるよ」

確かに桃田さんは忙しい。
1週間に1度会えればいい方だし、出張とかだったらもっと会えない。

「私は、桃田さんじゃなきゃ駄目なので」

そう言うと、キムラ君は腕を離してくれた。

「告白する前にフラないでよ」

まさかバイト仲間だと思っていたキムラ君にこんな事言われるなんて思ってもいなかった。

だけど、私には桃田さん以外考えられない。


「華ちゃん」

桃田さんだ!
後ろから桃田さんの声が聞こえてきて、私の肩に桃田さんの腕が乗せられ引き寄せられる。


「一二三のスタッフさんだよね?いつも華と仲良くしてくれてありがとう」

え?
今…桃田さん、私のこと“華”って言ったよね。
いつも“華ちゃん”なのに。


「あんまり華ちゃんを1人にしない方がいいですよ!さっきも男に絡まれてましたから」

「キミが助けてくれたんだったらお礼を言うよ、ありがとう。華、大丈夫だった?」

そう聞いてきてくれた桃田さんのスーツをギュッと掴む。

「もう大丈夫だよ、華ちゃん。2度とないようにするから安心して」

そう言って、桃田さんは私の頭を撫でてくれる。
私は、桃田さんのこの手の温もりだけで安心するんだ。

「震え止まってんじゃん。彼氏だとこんなに簡単に震え止まるんだね」

「あ、キムラ君、ありがとう」

再びお礼を言うと、キムラ君は帰って言った。