桃の華〜溺愛イケメン社長〜

「あの、桃田さん、おばあちゃんなんですけど、しばらく忙しくて…」

「うん、わかった。いつまでも待つから大丈夫だよ」

また帰ったらおばあちゃんに話してみよう。

桃田さんに家の近くまで送ってもらい帰ってきた。

「ただいま。おばあちゃん、あのね」

「華、週末11時からになったからね」

私が話そうと思っていたのに、おばあちゃんに遮られてしまった。

はっきりとおばあちゃんに言えないまま、数日がたってしまった。

ついに明日はおじいちゃんが決めたと言う人に会う日にだ。

今日こそはおばあちゃんにはっきりと言わなきゃ。
もう後がないんだから。

「おばあちゃん、明日のことなんだけど」

「……」

いつもは優しいおばあちゃんなのに、返事すらしてもらえない。

「おじいちゃんとおばあちゃんには本当に申し訳ないと思うけど、私は今お付き合いしている人が本当に大好きなの」

「華の気持ちはわかった。けど、申し訳ないと思うなら明日はおじいちゃんの顔をたててちょうだい」

申し訳なく思う気持ちは嘘じゃない。
だけど、どうしても桃田さんのことが気になる。

「それに、華は覚えていないかもしれないけど、小さい頃に会ったことあるのよ。すごく懐いていたけど、覚えていない?」

小さな頃?
考えてみても全く思い当たらない。

「相手のおじいさんと華のおじいちゃんが親友で、子供同士を結婚させようって約束したんだけど、2人とも男の子しか生まれなくてね。それで孫の代にその約束が受け継がれた」

こんな話は初めて聞いた。

私が聞かされていたのは、その人と一緒になったら幸せになるからって言うことだけだったから。

「だけど、おじいちゃんが決めたのはそれだけじゃないのよ。華の両親が事故で亡くなって華が毎日泣いていた頃、そのお孫さんが華の笑顔を取り戻してくれたのよ」

話を聞いても全く思いだせないよ。

私の両親が亡くなったのは、もう12年も前だ。
私がまだ5歳の頃だったから覚えていなくても仕方ない。

でも、少しだけ覚えていることがある。

今から思えば、あれは両親のお葬式だったんだろうけど、その時にみんな忙しくて私がひとりでいると、誰かが優しく頭を撫でてくれたんだ。

桃田さんみたいに優しく。

だけど、それが誰だったのかは全く思い出せない。