「ほんと、華ちゃんには敵わないな。守るつもりが守られてるよ」

そう言った桃田さんの表情が少し柔らかくなった気がする。

「あんな親父で驚いたでしょ?」

「い、いえ」

お父さんを見て驚いたりはしなかったけど、桃田さんが寂しそうな顔をしているように見えて驚いたんだ。

そして、そんな顔はさせたくないって思った。

出来る事なら私が桃田さんを笑顔にしたいなんて思ってしまったよ。

「昔はあんな人じゃなかったんだ。尊敬もしていたし、仕事も出来る人だった。そのお陰で海外の学校にも行かせてもらえたしね」

桃田さんは高校の時からアメリカで暮らしていて、起業するために日本に帰ってきたって聞いたことがあった。

「でも俺が会社を起こしてしばらくして、親父の会社が倒産した。今じゃ息子に集りにくるどうしようもない親だよ」

そう言う桃田さんの表情はやっぱりどこか寂しそうだ。

「もうここにも来させない。華ちゃんには2度と会わせないようにするよ」

「私、桃田さんのお父さんにお会いできて嬉しかったです」

ほんの少しの間だったけど、自己紹介も出来て良かったって思ってる。

「またお会いしたいです」

「ありがとう。でもろくな事ないから、会わないほうがいい。今日だって金が欲しくて来たのわかったでしょ?」

「桃田さんが怪我したって知って心配で会いにきたのかも」

だって、お金がほしいなら電話で済むだろうし。

それなのにわざわざ会いに来たってことは、心配で様子を見に来たんだと思う。

「残念だけど、そんな人じゃないんだ。あの人は。お金のためなら息子だって脅すような人だから」

「桃田さん、私信じます。だって桃田さんのお父さんだから」

大好きな人のお父さんを信じられないなんて嫌だよ。

桃田さんだって自分のお父さんなんだし、きっと心のどこかで信じていると思う。

「ありがとう、華ちゃん」

それ以上、桃田さんはお父さんの話をすることはなかった。

だけど、私は桃田さんのお父さんも、桃田さんの気持ちも信じている。