先生は、そう言いながら杖を自分の顔の前に出して、目を閉じた。

「記憶の糸を紡ぎ、絡めよ」

先生が呪文を唱えると、杖先が光って、その光は利希の頭まで飛んでいって弾け飛ぶ。

「……っ!」

利希は、驚いた顔を見せた。

「……そうだ……庚たちが帰ったあと、俺と閃は本を読んだり話したりして過ごしてた。時間も時間だし、帰ろうとしたら……あれ?帰ろうとしたら、何があったんだっけ?」

「……千草くん、ゆっくりで良いよ」

先生が利希に向かって微笑む。あ、そっか……利希の名字は、千草だったっけ。

「……」

私たちは、無言で次の利希の言葉を待った。

「……皆、どうしたの?」

不意に声が聞こえて、私たちは声がした方を振り返る。本棚から、誰かがこちらを覗いていた。よく見たら閃だ。

「閃!」

私たちは、閃に近づく。

「閃、心配したんだから……」

近くにいる葵が安心したように笑った。でも、「……違う」と利希は呟く。

「違う……そいつは、閃じゃない……」

「利希、何言ってるの?」

葵が不思議そうに尋ねても、利希は混乱しているのか「……あれ?」と首を傾げるばかり。

「……利希、落ち着けって……」

そんな利希を見て、庚は苦笑した。