第1章 出会い

高校を卒業した私(仲間優子)はスーパーに就職した。

入社の前に配属先の店舗に、下見と店長に挨拶をしに行くという目的で足を運ぶ事にした。

配属先は自宅から1時間くらいの場所にあり、バスと電車を使いそして駅から20分歩いて店舗まで向かう。

お店に着いた私は唖然とした。

えー・・・こんな所で仕事するのか・・・

私の配属先店舗は、海が近く団地が集結した場所にあった。

そのスーパーも団地一棟の一階にあり、狭くて薄暗い感じだが、どこのスーパーよりも比較的安いだけあってお客様はそれなりに入っていた。

はぁ・・・もっとキレイで広い店舗を想像してたのに、残念。

でも、異動もあるみたいだしそれまでは頑張ろう。

そんなことを思いながら店内をうろうろし、自分の配属になった惣菜部の人たちと作ってる物などを中心に見て回った。

なんか・・・お客さんも従業員も若い人少ないじゃん。

正直働きにくそう・・・

狭い店内を10分くらい拝見した後、店長と記された名札を見付け、その人に声を掛ける事にした。

「あの、すいません」

「あ、は、はっ・・・い!」

私の顔を見るや否や、店長はとても驚いているかのように返事をどもらせていた。

スラーっと背の高いイケメン店長。唯一、このお店の気に入った点だ。

「えーっと、来週からこのお店の惣菜部として配属になった仲間優子です」

「・・・あー!惣菜部の仲間さんね」

一瞬時が止まったかのように店長に見つめられる。

「えーっと・・・どうかしましたか?」

「っあ!いや!・・・えーっと、仲間さんだったね。
本社から履歴書が届いて拝見したけど、高校の3年間はスーパーでバイトしてたみたいだね?」

「はい。でも青果だったので惣菜は全く分からないんですけどね」

「スーパーで仕事の経験があるならある程度のことは知っているだろうから、来週から惣菜部としてよろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

「うん。今日はわざわざ挨拶に来てくれてありがとね」

「いいえ、私こそ忙しい時にすいませんでした。では、また来週に」

「うん。また来週ね、気を付けて帰るんだよ」

「はい。ありがとうございます。では、失礼します」

店長への挨拶は1、2分で終えた。

私を見てなぜあんなに店長は驚いた顔をしたのか疑問には思っていたが、さほど気にはしていなかった。

それから3日後、入社式があり無事に終えた。

そのまた4日後、新入社員としての初出勤の日がやってきた。

ふー、なんか急に緊張してきたなー。

よし、行こう!

電車に30分くらい揺られ、勤務先に着いた私は事前に送られてきていた書類を鞄から取り出し、指定の場所へと向かった。

コンッ、コンッ・・・

「どうぞ」

ドア越しから店長の声が聞こえた。

「失礼します」

「おはようございます。今日からよろしくお願いします」

「っお!仲間さんおはよう。待ってたよ。にしても早いね、1時間前に来た子は今までで初めてだよ」

「なんか急に緊張しちゃって、家で落ち着かなくて早めに出て来ちゃいました」

「あはは、緊張するよね。でも、初日に遅れてくるよりはやる気が感じられるから店長は好きだな」

「あ、ありがとうございます」

店長のはにかんだ笑顔が目に焼き付いた。

「緊張するだろうけど気楽にしてね」

「あ、はい」

まだ少し緊張していたが、店長のその一言で緊張が和らいだ。

「とりあえず、新入社員の顔合わせから始めるから。
ここが事務所になるんだけど、一回外にでてもらって左に行くとすぐ階段があるからそこを上って、2階の一番手前の部屋がこのお店の休憩室になってるから、そこで適当に座って待っててくれるかな」

「はい。分かりました」

店長に言われた通り休憩室に入り、メモ帳を用意しながら待っていた。

それから30分くらい経過した時、ドアが開きスーツを着た男性が入ってきた。

コンッコンッ・・・

「失礼します」

私は立ち上がり近付いてきた男性に挨拶をした。

「あ、おはようございます」

「おはようございます」

簡単に挨拶を終え、私たちはイスに腰かけた。

この人が同期の子か、なんか真面目で無口そうな人だな。

新入社員は3人って言ってたからもう1人の同期は女の人だといいな。

シーーーン・・・。

私たちは会話もしないままただ座って待っていた。

10分後、

コンッコンッ・・・

「失礼しまーす」

えー!!男かよ・・・しかもチャラそうじゃん。

「おはようございまーす。同期の人たちっすかー?」

沈黙で気まずかった雰囲気が一気に明るくなって思わず笑ってしまった。

「ふふっ、そうです。私は仲間優子です。よろしくお願いします」

「あ、俺は山田陸人です。よろしくお願いします」

「あぁーおー、俺は阿部良太。よろしくっす。ってか、3人ともタメっしょ?同期なんだし、そんな堅苦しい挨拶はやめよーぜ」

「そうだね。数少ない同期だから仲良くしようね」

同い年ということもあり3人はすぐに打ち解けることが出来た。

コンッコンッ・・・

「お待たせしました。店長の玉森です」

私たち新入社員3人と店長が揃ったところで、一人一人の自己紹介が始まった。

続いて働くにつれての心構え、お客様に対しての基本的な接客の仕方などこと細かな説明が終わった。

「じゃ、とりあえず基本的なことは忘れないように。
そろそろ開店の時間帯だから従業員はバタバタしてると思うけど、3人が今日から出勤なのは全員知っているので、お店に戻って各部門の人達に挨拶をして今日のところは終わりです。
最初に仲間さんの部門の惣菜部から回ろうか」

「はい」

4人は総菜部門に向かった。

「おはようございます。今日からこのお店で働いてもらう新入社員たちですので優しく教えてあげてください。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

店長の言葉に続き、私たちも挨拶をした。

「あらー、若い子ちゃん3人可愛いわねー」

「この方が惣菜部のチーフ、臼井さんです。臼井さんは仲間さんに一からゆっくり教えてあげてください」

「分かりました。仲間さん、よろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

意外とみんな優しそうで良かった。

早く仕事したくなってきたな。

店長に続いて全部の部門への挨拶が終わった。

「これで全部の部門に挨拶が終わったから、一端休憩室に戻ろうか」

「はい」

4人は休憩室に戻り、店長からの話が始まった。

私たち3人がまだ緊張していると分かった店長は、

「とりあえず、各部門のその場に慣れることと、まずは俺に心を開いてほしい。
俺は新入社員さん達の味方です」

玉森店長、発する言葉も素敵だな。

こんなに新入社員のことを思ってくれる店長の下で働けるのは安心だ。

そんなことを思いながら店長の話を聞いていた。

そして、15分くらい話をして

「今日は初日で挨拶だけでも疲れただろうからまっすぐ家に帰ってゆっくり休んで、また明日からそれぞれの部門で頑張るように」

店長の話が終わり私たちは休憩室をあとにした。

「あー、まじ気疲れした」

帰り際に阿部君のその一言から3人の会話が始まった。

「本当だよね。めっちゃ緊張したわ」

「若い女の子少ないから、お前おばさん達から新人いびり受けるんじゃねぇ?(笑)」

「それはないでしょう。みんな優しそうだったし。それより、もうお前呼ばわり?」

さすがチャラ男。

3人で色々話しながら歩いて駅まで向かい、電車に乗った。

1つ目の駅に到着し

「じゃ、俺はここだから、また明日なー」

最初に降りたのは阿部君だった。

「うん、また明日ね。お疲れさまー」

2人を乗せた電車は次の駅へと到着し、山田君も同じ駅だったため、一緒に降りた。

「私はあっちだけど山田君は?」

「俺はこっち」

「じゃ、また明日ね」

「おう!また明日。気を付けて帰れよ」

山田君と別れ、バスに乗っている最中に今日の出来事を振り返ってみた。

山田君は無口そうな感じだったけど、話していくうちに意外とよくしゃべるタイプみたいだし。

阿部君は・・・うん、チャラい。以上。

とりあえず同期とは仲良くなれそうで良かった。

それにしても、店長まだ若そうに見えたけどいくつなんだろう?

30代は確かだろう。

自分でも分からないがバスの中で考えていることは、一番近くで一番一緒に働く総菜部門の人達ではなく、店長のことばかり考えていた。

本当は初日のこの日から店長に一目惚れをしていたのかもしれない。

だけど、恋愛をするのは年上でも5歳くらいまでと自分の中で絶対的なものだと思っていた。

だからその時にはこの恋に気付いていなかった。

バスに乗ってから20分が経ち、家の近くのバス停で降り帰宅した。

家に帰った瞬間に一気に疲れを感じた。

お風呂に入ってご飯を食べて19時には睡眠に入っていた。

翌日。

「行ってきます」

1ヶ月はスーツで出勤とのことだったのでてきぱきと着替えを済まし家を出た。

仕事場に到着し、制服に着替えて総菜部門へと向かった。

「おはようございます。これから頑張りますのでよろしくお願いします」

「あっ!おはよう。よろしくね」

そして、休憩1時間と8時間の仕事を終えた。

着替えが終わり帰ろうとした時

「仲間さん、お疲れ様」

「あっ!店長、お疲れ様です」

「今日から惣菜に入ってみてどうだった?」

「いやー、フライヤーに揚げ物を入れるだけでとてもビビっちゃって全然仕事にならなかったです。でも頑張れそうです」

「そうか、まぁ最初からなんでも出来る人はいないし徐々にね。仲間さんの前向きな姿勢が見れて良かったよ」

「はい。頑張ります」

「さっき、山田君と阿部君とも話したが2人とも不安しかないと言っていたよ。
仲間さんももちろん不安はあるだろうけど、なんかあったらすぐに誰かに相談すること。
もし、パートさんや正社員、俺にも相談出来ないことは、その時は同期の山田君、阿部君に相談するといいよ。
同期というのは一番大事にするものだし、一番支えになってくれるはずだからね。
それでも解決しなくて「辞めたい!」って思ったらその時点で必ず俺に相談して。
新入社員を支えていくのも俺の仕事だからさ」

「はい。分かりました。困ったことがあったらすぐに誰かに相談します。ありがとうございます」

「うん。じゃ、今日はお疲れ様。気を付けて帰ってね」

「はい、お疲れ様でした」

5分くらい会話をしその場を後にした。

さすが店長って感じだったな。

すごく説得力があったし、部門が違っても同期というものは大事だってことも教えてくれた。

店長が話してくれたことは上司が部下によく言う言葉。

今までの自分なら、「あーゆー話ってアルバイトしてた時も耳にしたし、不安があるのとか当たり前じゃん。頑張ります。とか言っても嫌になればどうせすぐ辞めればいいだけの話だし」って、そんな風にしか思っていなかったはずなのに。

玉森店長にその話をされた時はなぜか、
「嫌なことがあってもお金をもらっている以上は仕事なんだからある程度は我慢もちゃんとして、一生懸命頑張らないと」
と言われているような気がした。

その日から仕事に対しての気持ちが変わった。

今日の帰り道も店長のことばかりを考えていた。

それは今思えば、自分の知らない間に恋をしていたってことなんだろうか。

入社から4ヶ月が過ぎた頃、

惣菜の仕事もそれなりに出来るようになり、チーフからも仕事を任されるまでになっていた。

同期の2人とも月1で遊びに行ったり相談し合ったりで、店長の言葉通り同期を大事にしている。

店長とは、初出勤の日から1週間くらいまではよく会話をしていた。

その後は夏に近づくにつれ、店内はお客様で溢れかえっていた。

夏はとてつもなく忙しく店長との会話は少なくなっていた。