数珠を手に掛けると、霊気を一番強く感じる方向へ目を向けた。

この数珠は零次が父親からもらったものだった。

幼い頃、その霊力を狙って多くの悪霊に襲われた。

ある日、命からがら逃げてきた零次に父はこの数珠を渡した。


―――「悪霊に出会ったらこいつを使え。そして詠唱しろ」





ガサガサッ!!



草むらが揺れた。

そして…


「ギャァァアオ!」


息を呑む。

草むらから飛びだした、その化け物に目を向ける。


「なんだ…こいつは…?」


悪霊の域を越えている。

まがまがしい霊気に、この世のものとは思えない不気味な姿。

3メートル程の背丈に、鬼のような顔。

頭には30センチほどの2本の角。

そして、なぜか胸の辺りにも、頭の角より小さな突起があった。



「ただの悪霊じゃねーな…とりあえず」


化け物を睨み付ける。


「てめぇを消す…!!」


零次の言葉を理解したのか、化け物が咆哮をあげた。

「上等じゃねーか…行くぜ…!」


数珠を前にかかげ、息を大きく吸う。


「古の断り、朝の月、昼の星、夕の―――」


詠唱を始めたその時――