初恋と失恋を同時に味わったあの日のことを美鈴に伝えると、泣きそうな顔をしながらありがとうと言ってきた。別に私は何もしてないからお礼を言われても困ってしまうんだけど、とりあえず頑張れと伝えて、空からも美鈴からも少し距離を取るようになった。みんなでお弁当を食べて校内放送をしたら、お昼休みはいつかの階段で過ごす日々が続いて、あっという間に2週間が経ってしまって。最初は寂しかった1人で歩く帰り道も、すっかり慣れた。
「あれ、また空くんとおらんの」
「うん、気になる子と帰りなっていった」
「ふーん、それでいいん?」
「だって邪魔できないもん」
「別に友達のこと邪魔とか言わんでしょ」
「私がそうしたいからいーの!また明日ね!」
 心配してくれる春くんの声を振り切って家路につく。そういえば久々に成夢からあとで連絡するって言われた気がするな。早く帰って寝る準備しておこう。

「もしもし、久しぶりだね電話するの」
「久しぶりだねーー」
「どうしたの?」
「あのね、俺美鈴と付き合うことになった」
「お、めでとう…!よかったね!」
「しぐれが話聞いてくれたおかげだよ、ありがとう!」
「ううん、私は何もしてないよ!美鈴と空が頑張ったんでしょ!」
 もう最初の時みたいに具合が悪くなることはなかった。少し戸惑ってしまったけれど、いつか聞くことになるとわかっていたこの報告。なんて返すかも決めていたし、どうやって切るかも決めていた。
LINEの通話が切れる音をちゃんと聞いて、携帯の画面を落とす。もう私の気持ちの行け場はない。ぶつけようもないこの気持ちが溢れ出さないように、ギュッと目を瞑った。

 空と美鈴が付き合ったのはあっという間に全校に広まって、お似合いな2人に誰も文句を言わなかった。もちろん春くんと明空にも報告してたし、2人はめちゃくちゃいじりまくってた。私もちゃんと空気に合わせて茶化したし、笑顔を見せた。ただ相変わらず帰り道は1人だし、お昼休みは階段。「片時雨の転校生」の話題も消え去って、友達という友達が美鈴以外にいなかった私はほとんど誰とも話すことなく淡々と日々を過ごしていた。
 気付けば季節は冬。雪が降り始めそうなある日、見たくなくて避け続けていた場面に遭遇してしまった。互いの体温を分け合うように手を繋いで歩く2人。なにごともそこそここなしてゆるく生きているように見えた空の心底幸せそうな顔を見たら、あの日枯れたと思っていた涙が溢れてきてしまう。

――――ちりん

 春風に吹かれた鈴のような音が響く。野良ネコでも通ったかと思ったけれど想像以上に近くから聞こえたその音は、私が涙を零すたびに儚く響いて冬の空気に溶けていく。
 私からしているの?なんでこんな音。
 泣いていたら鳴ってしまうなら泣きやまなければいけないのでは。思ったより冷静に思考を回して涙を拭う。
手に乗ったのは、涙ではなく「星」だった。