「明空、今日全員の日?」
「うん!しぐれも慣れてきたね~」
「部活自体はもう2カ月やってるもん」
「あれ、まだそんなもんやっけ」
「夏休みあったもんね」
 入部した頃の雨ばかり続いた季節が過ぎて、日差しの暑い夏を越えて街路樹が色付いた。
 夏休みにたくさん遊んで仲良くなれた私たちは、歳なんて関係ないとため口になったり、先輩呼びをやめたり。放送部は、転校してきたばかりでクラスに居場所がなかった私の居場所になっていた。
「みなさんこんにちは、お昼の校内放送です!今日のお相手は、片時雨の雲担当、部長の明空と!」
「晴れ担当、副部長の春人と」
「雨担当、空と」
「虹担当、しぐれです」
「今日のかたラジはなにをするんですか春くん」
「えー今日は後輩いじめ企画でーす」
「え、俺教室戻っていい?」
「私も戻りたいでーす」
「だめ!俺はお前らにやらせたいんだ!ということでやっていきましょう、即興劇対決―!!」
「私もやりたくないので却下!!!」
「お便りボックスに入ってたので却下できません!企画説明しまーす」

 週1のかたラジにもだいぶ慣れてきたし、教室でもすごく仲のいい子はいなくとも浮かずにいられている。平凡な日常に、少しだけ特別な片時雨との時間。最初は成夢になんとなく惹かれて入部したこの部活だったけれど、すっかりなくてはならない存在になってしまった。

「しぐれ!今日のかたラジよかったよ~やっぱり空先輩はかわいいなぁ…」
「今日もファンクラブのみんなと聞いてたの?」
「そうそう!しぐれファンも増えてきたよ!」
「えぇそれは変な感じ…」
 放送が終わって教室に戻れば、相変わらず今日の放送の余韻に浸ってざわついていた。だいたいの人が先輩たち推しだから私に話しかけてくる人はいないのだけれど、美鈴だけは毎週律儀に感想を言いに来てくれる。とは言ってもほとんど成夢の話なんだけど。
「そんなに好きなら話しかけに行けばいいのに」
「あ、たまにね、話しかけに行ってるんだ!でも緊張して全然話せなくて」
「あ、そうなんだ。空誰にでも優しいから大丈夫だよ」
 美鈴も人気者だし空も人気者だし、並んでたらお似合いだなと思う。でもその半面、きっと空の隣を1番歩いているのは私だなとも思った。