その後無事に職員室に入部届けを出すことができた私。担任の先生にも微妙な反応をされたのはちょっと気になるけど決めてしまったから仕方がない。
 「顧問にハンコもらったら正式入部だからな」と言われたので正確に言えばまだ仮入部だけど、とりあえず先輩方に入部届けを出したと報告することを胸に放送室の扉をノックする。
「お!来たねしぐれ!!」
「お邪魔、します」
「入部届け出してきたん?」
「あ、今来る前に出してきました」
「じゃあ明日には正式入部だね」
 特段広くもない放送室には難しそうな機材やら映像用のカメラやらが置いてあって、私機械いじれないんだよなぁとか、いつもあの階段で聞いているお昼の校内放送はここから流れてきているんだなぁと思うと不思議な気分になる。
 よく見てみると先輩たちの私物であろうお菓子や携帯ゲーム、教科書とノートまで置いてあってすっかり3人の空間が出来上がっていた。きっと他の部のように部室らしい部室がないから自然とここが溜まり場になっているのだろう。
 既に完成した空間や集団の中に入っていくにはとてつもない勇気が必要だ。今まで先輩方3人で作り上げてきたこの「放送室」という空間を邪魔しちゃいけないなという気持ちに駆られる。おそらく私は、ここでも上手く空気になりつつ仕事をこなすことになる。まあ他の部活みたいに活動最低人数が決められているわけでもないから、その分気楽なだけマシだろう。
「今日は入部祝いだね!!」
「え、そんないいですよ、部活中だし…」
「放課後は特にやることないからいいんだよ」
「そうそう、毎日ゲームしとるもん俺ら」
 本当に何もしてないのだろうか。それはそれで問題なような、言われてみれば放送部の放課後はひまなような。新参者があれこれ言うものでもないか。
 「しぐれは何食べたい!?」と棚からお菓子を出して広げ始めた明空先輩に「ポッキー食べたいです」と返して、とりあえず歓迎してもらうことにした。


 初めて部室に顔を出した翌日、問題なく正式入部が決定して晴れて放送部員としての肩書を得た。去年の放送部チームの名前は「ひととせ」だったこと、今の代は「片時雨」という名前で、週に1回、いつもの校内放送とは違う「かたラジ」という校内放送をしているということを美鈴に教えてもらったんだけど、話を聞けば聞くほどあの部にいることが不安になる。
 別に誰に自慢したわけでもないのに翌日の朝にはクラスで私のことが話題になっていたし、「昨日一緒に帰ってたの片時雨のみなさんでしょ!?」と質問攻めにあった。昼の放送の時間はいつもあの階段裏にいるから、生徒がどんな様子で放送を聞いているか知らない。なんなら意識してなかったから放送自体をちゃんと聞いた記憶がまるでない。クラスには馴染んでおくべきだったとどうしようもない後悔が襲ってくる。
 今日の昼はまだ放送に声をのせないで見学してていいよと許可をもらっているけれど、明日から放送で話すことになったらどうなってしまうんだろうか…初部活へのわくわくとこれからへのもやもやを抱えながら、お弁当を持って放送室に向かった。