「今日からこのクラスでお世話になります、天野しぐれです。
よろしくお願いします。」
高校1年生の5月、ここに転校してきてから、あっという間に1か月が過ぎ去った。
「しぐれ、購買行かないとパン売り切れちゃうよ!早く行こ!」
「あ、待ってお財布取ってくる!」
「もう、しぐれは抜けてるなぁ」
「ごめんて、みすず」
みすずこと彼女、佐原美鈴は、転校してきて最初に話しかけてくれた隣の席の女の子で、今も何かと構ってくれている。
上手くクラスの女子グループに入って行けずに孤立することになることも覚悟していたが、美鈴のおかげで何とか1か月を乗り越えられた。
……正直得意なタイプの子ではないけれど。
しかし美鈴は、とてもいい子だ。成績もよくて顔立ちもいい。人見知りすることなく、学年の壁を越えて校内ではかなり顔が広い。誰かを悪く言うこともなく、男女共に彼女を慕う人は多い。
ただ、タピオカとかインスタとか化粧とか、そういう女子高生っぽいところが私はどうも苦手で、未だに自分から話しかけることはほとんどない。
それでも美鈴は話しかけてくれるから、やっぱりいい子なんだろうなと思う。
「そういえば、部活決めたの?先生に入部届け今月までって言われてなかった?」
「そうなんだよね、まだ決めてなくて。」
「私と一緒にチアやろうよ!春奈ダンス好きでしょ?」
今月何回目か数えてないけれど、かなり聞き慣れたお決まりの誘いを受ける。
ここのチア部はこの辺じゃかなり有名な強豪らしく、美鈴は1年生にして部のエースなんて言われている。
そりゃ男子にもモテるわけだ。
「いや、ああいうキラキラしたのは私にはちょっと……美鈴は可愛いからいいけど」
「しぐれも可愛いじゃん!化粧したら絶対モテるよ」
「そんなことないよ、美鈴の隣にいたらなおさら」
「そんなことないのになー」
美鈴はそう言ってくれるけど、実際私たちの間にある壁はかなり大きくて、今も購買に歩いてきただけなのに一部からは小さい歓声が上がる。
こういうとき彼女の隣にいるのは、とても居心地が悪い。
「ごめん美鈴、ちょっと具合悪いから先行くね」
「え、大丈夫?着いて行こうか?」
「いいよいいよ。ほら、先輩呼んでるよ」
心配そうな顔をしている美鈴を振り切って、取り置きしてもらってたパンとパックのココアの代金を購買のおばちゃんに渡す。
