繁華街の奥にある美容室『Shic』 

値段は少し高いけれど、技術は確かだった。
 
ずっと私を担当している翼は、私の要望を理解して、いつも満足できる髪型に仕上げてくれる。

会話の量やタイミングも、私に合っていた。
 
端正な顔立ちで。美容師に有りがちな、派手な軽薄さもなく。

むしろ、知的な雰囲気の翼を気に入って、私はいつも翼を指名していた。
 
毎月1回、必ず会うけれど。でも、信頼できる美容師と固定客。

ただそれだけの関係。

私は、翼を男性として意識していなかった。

多分翼も。あの日、偶然出会うまでは。