「今日は、どんな風にしますか。」

いつものように、私の髪に触れながら翼は聞く。
 
「いつもと同じで。毛先を揃えて頂いて。あと、トリートメントもお願いします。」

鏡越しに翼を見ながら、私は答える。

いつも通りテキパキと。翼は、私をシャンプー台に案内する。
 
「今回は、少し早いですよね。」

傾けた椅子で、顔にガーゼを掛けて。

私の髪に、そっとお湯を掛けながら翼は聞く。
 
「はい。来週でよかったんだけど。実は、明日、お見合いなんです。」

顔が見えない気安さで、私は正直に話してしまう。
 
「えっ。森田さん、そんな年じゃないでしょう。」

翼は少し驚いた声で言う。

でも正確な手の動きで、声ほど驚いてはいないと 私は思った。
 
「結婚なんて まだ全然、考えられないんだけど。父の付き合いで。どうしても断れないって言うから。一度くらいはいいかな、って思って。」

私は笑いを含んだ声で言う。
 
「罪だなあ。相手の人、本気になっちゃうよ、きっと。」

翼も軽く笑いながら答える。
 
「フフフ。大丈夫ですよ。」

私が言うと
 
「今日は、森田さんを綺麗にしたくないなあ。パンチパーマかけちゃう?」

と笑う翼。私もクスクス笑いながら、
 
「ひどいなあ。お見合い終わっても、外、歩けなくなっちゃうわ。」

と答えた。