「俺、妻と全然、話しできてないんだ。すれ違いばっかりで。落ち着かなくて。」


翼は、すまなそうに私を見る。

私は、唇を噛みしめて俯く。
 
「話してからじゃないと、駄目なの?」

上目使いに翼を見て、私は小さく聞く。

一線を越えることで、私達の関係を、確かなものにしたいと思ってしまう。
 
「結花里。ごめん。結花里に、そんなこと言わせて。」

そう言うと翼は、もう一度、私を抱き締めた。
 
「私こそ。ごめんね。翼君だって、辛いのに。」と言う。
 
「ううん。結花里の方が辛いよ。俺、結花里に辛い思いさせているのに。本当に、ごめんね。」

翼は私の髪に、何度も唇を付けながら言う。

私は、翼の胸で、静かに首を振り
 
「いいの。翼君は謝らないで。」と言う。

言いながら何故か、涙が流れる。
 
こんなに誰かを好きになったことはなかった。

一緒に居られるのなら、何もいらないと思うほど。

翼の胸に包まれて。何時間でも、じっとしていたいと思った。