「俺と妻は、美容学校の同期なんだ。入籍する３カ月くらい前、コンクールの会場で再会して。それまでは、お互い、何とも思っていなかったんだ。」

翼はそこまで話すと、そっと私の手を握った。
　
「俺も妻も、入賞できなくて。帰りに、二人でやけ酒飲みに行って。妻が、飲み過ぎてつぶれちゃって。俺のアパートに連れて来たんだ。」

夫婦の馴れ初めなのに。翼は苦い思い出のように話す。

私は、翼に手を握られたまま、じっと翼の目を見ていた。

「何となく、そのまま俺のアパートに居付いちゃって。そのうち、俺のアパートが更新の時期になって。広い部屋借りて、一緒に住もうかって話しになって。気に入った部屋が夫婦限定って言われて。じゃあって感じで、入籍したんだ。」

それでも翼は、丁寧に話してくれた。
　
「そんな感じで、結婚って決めちゃうものなの？」

私は驚いて、翼に聞く。
　
「本当だよね。いい加減な気持ちで流されて。今、後悔しているよ。」

翼はフッと笑って言った。