この日の夜、8時半頃に翼から
 
『今、電話して大丈夫?』

というラインが届く。
 
『大丈夫です』

と私が返すと、翼はすぐに電話をかけてきた。
 
『こんばんは。今、仕事終わったよ』
 
『お疲れ様。案外、遅いのね。』

美容室は7時閉店だから。私は少し驚いて聞く。
 
『うん。閉店の後、片付けて。明日の準備をして。後輩に頼まれて指導することもあるし。』

と答える翼。
 
『大変なお仕事ね』

仕事は見えない所にもある。

解っているつもりでいたけれど。

きちんと働いたことがない私には、実感がなかった。
 
『うん。でも好きだから。人を綺麗にするって、気持ち良いよ』

だから、そう言う翼に心を動かされてしまった。
 
『好きなことを仕事にできるって素敵ね』

私が羨ましそうに言うと
 
『そうでもないけど。結花里ちゃんは、どんな仕事しているの?』

翼は少し笑って、私に聞いた。私はいつも通り
 
『ただの事務よ。退屈』と答える。
 
『女性はそのくらいでいいんじゃない。結婚とか、子育てとかあるから。』