山南敬助。


厳しい土方とは対照に、優しく柔和な為、仏の副長と呼ばれている。


透の頭にはこの人物に対する説明はそれくらいしか浮かんでこなかった。


"新撰組の元へ行く"と知っていたからと言って、歴史に詳しい訳ではない。


ただ、沖田総司に興味を持ったのだ。


たった一人。


ただそれだけに。


「どうも…、よろしくお願いします…。」


丁寧な謝罪とにこやかな笑顔を差向けられれば、それに応えるしかなくなる。


仕方なしに透は挨拶を交わした。


「無礼を働いた事は謝ります。しかし、今は申し訳ありませんが貴方の身柄をどうするか決めなければなりません。此処はどうか抑えて頂けませんか?」


なんというか、戦意喪失、そんな感じだ。


あまりに丁寧に、申し訳なさそうに言われて肩から力が抜けた。


「……………すみません…。私も少しやり過ぎました。」


深呼吸を一つし、やっと腰を落ち着けた。









「それでは透のこれからの処遇を決めたいのだが………私は、透を此処に置きたいと思う。」


近藤の落ち着いた、だが威厳のある声がこの部屋に緊張感を持たせる。


「異論は…、と聞きたいところだがそれは認めない。」


その断定的な言葉に透の口の端が緩く持ち上がった。


だが誰も気づかない。



「彼女は不思議な目を持っている。もし仮に、そのそ目を以て得た浪士組の情報が流れるような事があっては困るのだ。だから保護観察という形をとりたいと思っている。」


土方と山南は近藤の目を見て頷いた。


沖田は一人、下を向いたままだ。


何故か自分を知る得体の知れない少女がこれから居座ることに抵抗でも感じているようだった。