「では、君の名前を教えてくれないか?」


「蒼麻透(ソウマトオル)です。」


少女───透は意外にも素直に答えた。


「透か、良い名だ。」


「あなたは?」


念の為、今度は透が問い返す。


『局長』、それだけでだいたい予想はついていた。


透は自分が此処、壬生浪士組───後に新撰組となる組織の元へ行くと知っていたのだから。


だからなるべく怪しまれないためにわざわざ着物を用意したのだ。


「ああ、そうだな。私は近藤勇、壬生浪士組の局長だ。」


やっぱりな、と思う。


「なっ!?近藤さん!!」


あっさりと素性の知れぬ少女に名乗った近藤に、土方歳三だと思われる男、『トシ』は声を荒げた。


だが近藤は寛大に笑う。


「大丈夫さ。こんなに小さくて可愛らしい、まだ子供じゃないか。」


その言葉にぴくりと透の肩が揺れた。


確かに透の背は同年代の女子に比べて小さい。


顔立ちも年のわりにはかなり幼いと言えた。


中学生、と言われても違和感のない容姿をしていた。


「子供だからって油断はできねぇだろ……はぁ…。」


『トシ』は溜息をついて、呆れたように額に手を当てる。


「………あの、私子供って歳じゃ…」


そう反論すればフンッと鼻で笑われた。


「いいとこ十四、五歳だろ。餓鬼じゃねぇか。」


「が…っ!?私十九!!」


「はあ?まったくそうは見えないがな。」


「じゅ、十九となればもう嫁いでもいい歳じゃないか…!ま、誠に申し訳ない!!」


馬鹿にする『トシ』とは対照的に、近藤はなんとも申し訳なさそうに謝った。


局長のわりに頭が低いなとひっそりと思う。


「近藤さんは別にいいです。土方歳三さん、ちょっとうるさい!」


「あ?」


───あ…


『トシ』の低い声を聞いてから思う。


失言だった。


名乗ってもいない人物の名前を呼んでしまうなんて。


しかもフルネームで。





───チャキッ





耳許で、金属音が聞こえた。