哭かない君と

「……………。」


「……………え…」


部屋の前まで駆けつけた二人は眼前に広がる光景に絶句した。


文机が中庭に転げ落ち、その周りには机の上にあった小物類も散らばり、障子は外れ、しかも穴まで開いて廊下に横たわっている。


この状況を見て、まさか透が脱走でもしたのではないかと脳裏に嫌な想像が駆ける。


が、部屋の中へ視線を移せばそれは払拭された。


彼女はきちんとそこにいた。


乱れた布団の上に座り込み、呼吸を乱し、肩を上下させて、そこにいた。


「……………俺…机をぶん投げる女子なんて初めて見た…。」


「はい、あり得ませんね。俺もまさか障子戸薙ぎ倒すほど暴れる女子なんていると思いませんでした。」


沖田は溜息を吐くと座り込んだままの透に歩み寄った。


「貴方、何の恨みがあって俺の部屋を荒らすんですか?」


低い声にぴくりと透の肩が揺れる。


だが、何も答えない。


俯いた顔からは表情を見ることも出来なかった。


「聞いてます?」


痺れを切らして強引に肩を掴めば、やっと目が合った。


「───っ!」


思わず息を呑んだ。


それは彼女が驚くほど無表情だったからだ。










「……っ!あ、ご、ごめんなさい!私の部屋こんなに綺麗じゃないからなんだか落ち着かなくて思わず…。」


気づけば苦笑しながらそんなことをいう彼女。


先程のあの表情が嘘かのようにケロリとしていた。


「……………あの、沖田さん…?肩、痛い…。」


そう透が顔を歪めた時、呆然と肩を掴んだままの沖田を覗き込むようにして二人の間に藤堂がひょこりと顔を出した。


「総司?どうしたの?そろそろ離してあげなよ。」