哭かない君と

───嫌がられてる。


苛立ちは近藤ではなく自分に向けられた物だろうと透は悟る。


「近藤さん、彼女を部屋に連れて行きます。」


此方まで歩み寄った沖田の手が透の腕をとった。


少し、痛い。


「ああ、よろしく頼む。」


「それじゃあ。」


彼の近藤に向けられる笑顔は障子が閉められると一瞬にして消えた。


そして透には見向きもせずにただ腕を引き、歩き出した。


同じような部屋が並ぶ廊下を進むとある一室の前で立ち止まる。


透もそれに会わせてぴたりと足を止めた。


「此処、ですか?」


その問いの答えは貰えず、沖田は少し乱暴に障子を開くと瞬時に透を壁際へ追いやった。


「痛…っ」


「貴方…何者ですか。」


自分よりも遥かに身長が高い沖田の顔が、見下ろすように、睨み付けるように透を見ていた。


「だから蒼麻透って───」


「───違います。俺はそんな事が聞きたいんじゃない。わかってますね?」


頭上で一つに纏め上げられた手首が軋む。


「……っ」


痛みに顔が歪む。


じわじわと追い詰めるように手首を纏める手に力が加わって行く。


「答えてください。貴方のその青目の衝撃が大きかったからなのか、はたまたわざと泳がせているのか。土方さんと近藤さんは大切なことを言及しなかった。


俺のことを知っているのは市中で見かけたとかそういうことでしょうけど、貴方がどうやって此処に入ったのか。何故此処に入ったのか。それを言及していない。」


それを聞かれたらどう言い逃れしようか困ってたからかなり幸運だと思ったのに…、まさかここにきて沖田さんに追及されるとは…


出そうになる溜息を飲み込む。


そんな態度をとればまた手首を締め上げられる可能性があるからだ。


今でもかなり痛い。


「………それは、まだ言えない…」


「何故です?」


ギチッと気分の悪くなる音がした。


「ぅあ…っ」


「面倒臭いです。仕事を増やさないで下さいよ。」


「い…っ、離してっ!もう本当に無理!!痛いっ!!」