哭かない君と

「いいや、大丈夫だ。それなら早く透の部屋を用意しなくてはな…。」


言いながら、近藤の顔が不意に曇った。


……………?


もしかして…


「空いてる部屋、ありませんか?」


「………いや…、あるにはあるのだが…」


透の問い掛けに近藤は曖昧に応えて頭を掻いた。









「───八木邸しかないんだ。」


「……………?」


───八木邸、たしか前川邸と一緒に新選組が借りていた屯所。


此処は前川邸。


なんだ、建物が少し離れてるだけじゃない。


何か問題でもあるの…?


考えてみたが答えは出ない。


室内を見渡してみるが皆難しそうな顔をしていた。









「───駄目だ。流石に女を八木邸に住まわせるなんて無理だ。まるで餌をほいほいと投げ込むようなもんだ。」


突然そう言ったのは土方で、透はまたもや目を瞬いた。


餌…?


駄目だ…、まったく話が読めない…。


「そうですね…。ですがこの前川邸には空部屋が無い…。」


山南も顎に手を添えて唸った。


「平隊士と同じ大部屋に投げ込むこともできねぇ。なら幹部隊士の誰かと相部屋しか選択肢はない。近藤さん、それが一番丸く納まる。」


土方の投げ掛けに近藤は苦渋の表情で頷いた。


「………透…、この通りだ。年頃の女子(オナゴ)を男子と相部屋にするなんて非道だとこの俺を罵ってくれていい、だからどうか…、我慢してくれ…」


言うなり勢い良く透に向かって頭を下げた。


……………近藤さんはどうしてそんなに自分を責めてるの…?


ちょっと不思議な人…。


「え…、私は全然平気ですよ…?別に近藤さんを罵ろうなんて…」


「…っそうか!君が心の広い人で助かった。ありがとう。」


心底安心したように言ってはにかみ笑う。





なんだか優しい…、独特の雰囲気の人だな…。