「先ずは木村組長」


「親父?」


「生まれながらの許婚を解消するんだ
それなりの理由がいるだろ?」


緩い喋りを封印した大和の声に
「分かった」と頷いて

幹部室に戻ると亜樹へ任せて
大和と共に飛び出した




□□□



「親父、俺だ」


「入れ」


家に到着して早々に親父の部屋に乗り込むと


「・・・っ」


先客が居た


「良いところに来たな
永遠、ここに座れ」


親父は隣を指差した

言われるままに腰をおろすと


親父の正面に座る男は丁寧に頭を下げた


「傘下、森谷組、千色お嬢付き
麻生大吾と申します」


一番会いたい奴だった


「親父・・・」


「とりあえず、現状を聞いた
あとは永遠、お前の気持ちを言ってみろ」


「今まで散々好き勝手遊んできた
だがそれも全て終わらせた
そうしたいと思える程惚れた女だ
森谷千色を婚約者と認めて欲しい」


付き合いを認めて欲しいなんて生温いことは言うつもりは毛頭ない
他から手を出されない方法で思い付いたのは“婚約”だけだった


「六つも上らしいじゃないか」


「六つしか変わらねぇ」


「決意表明の為に若頭襲名を早めても良いんだな?」


「あぁ、いつでも構わねぇ」


「フッ、そうか」


「麻生、倅はこう言ってるが
森谷のお嬢の気持ちも同じか?」


「はい、昨日許婚との顔合わせの話をしたら
こちらの若が好きだと泣かれました」


「そうか」


・・・クソッ
本当は千色の口から直接聞きたかった言葉だけど
今は親父の説得の為に我慢する


チラッとこちらを見た親父に
縋るような目を向けると


「許婚を解くだけじゃまた同じことを繰り返すことになる
そのお嬢を手に入れるには永遠の言うように婚約という形しかないな」


「頼む」


「永遠、この先何が起こっても
後戻りは出来ねぇぞ?いいな」


「承知」


「通達を出す」


「親父・・・すまねぇ」


「麻生も日曜日の顔合わせまでは
話を漏らさないように」


「承知」


「それから・・・これは内々だが」


そう始まった親父の話に
俺と大吾は瞬きを忘れる程驚いた

全ては千色の為に上手く取り計らう
その一言で締め括られた


「なんだか目出度いな」


ニヤリと笑った親父のひと声で
麻生も大和も巻き込んで

宴会が始まった

煩せぇお袋に姉貴二人も加わって
食堂はお祝いムード一色になった



・・・千色、待ってろよ
森谷の家の呪縛から俺が解き放ってやる




終わりの見えない酌を
断ることなく喉の奥へと流し込む

いつもならウザい程の量なのに
初めて旨いと思えた





side out