爬虫類の手を完璧に無視したのに


「ハハ、照れなくても大丈夫だよ」


恐ろしく空気の読めない
ポジティブ野郎みたいで


「東白学園で先生してるなんて凄い」

とか


「一ノ組の若頭と同じマンション?」

とか


リサーチした内容をそのまま
口にするだけのつまらない男


ホテルのカフェから続く空中庭園は
料亭の前だけが和に造られていて趣があるのに

気分はひとつも上がらなくて

小さな池に近づくと

カフェのお庭から歩いてくる大吾が見えた


「・・・?」


途中で立ち止まった大吾は
こちらまでは来ないようで

一度視線を合わせると小さく頷いた


・・・んっと

なんだろう?

大吾の意図が読めなくて
その姿を眺めていると


「千色さん、結婚はいつにしますか?」


唐突に爬虫類が切り込んできた


「は?」


「だから、結婚ですよ
その為に来たんでしょ?」


少し呆れた顔をしながら話す様子がムカつく


ただの顔合わせなのに
まるで日取りの決定までする勢いで


「俺と結婚することで森谷はシマを増やして
跡継ぎが出来る訳だろ?
子供はどうせ女の子しか出来ないだろうけど
親父さんからは子沢山でも良いから
何人でも産ませてくれって頼まれてるんだ
ま、期待に応える為に一日でも早く
子作りを始めなきゃね」


ニタニタと顎を触りながら話す爬虫類を見ているだけで
身体中を掻きむしりたくなる衝動に駆られる


なんでアンタなんかと・・・
そう口にしようとした刹那





「誰に断って俺の女と話してる」





聞こえるはずのない声が聞こえた