顔を見たこともない許婚は
同じ三ノ組傘下で
所帯の小さい土岐組の長男

土岐静弥《ときしずや》28歳

私と結婚すると土岐組は森谷組に吸収され
森谷組はシマを増やすらしい

“許婚”なんてごく偶に話題に上る程度で
これまでの私は特段それを気に掛けることもなく過ごしてきた

この家に生まれた以上
既にそれは決定事項で

私が嫌だと言ったところで
死なない限りそれが覆ることはない

だから・・・
納得もしていること

この世界じゃなくても
女系家族なんて少なからずこんな目に遭っているはずなのだ

顔も知らない許婚が実はイケメンで一途とか
恋愛小説でもなければ基本あり得ない


だって・・・

6歳も年上なのよ?

小学校も被ってないじゃない

それに・・・
キモブタ変態野郎ならどうする?
私のお先真っ暗よ?

そんな不幸事
実際ないとは言い切れないのよ?

一年に数回開かれる白夜会のパーティーで
許婚との接点を設けようとする両親に


「必要ない」


不参加と突き放し
冷たい視線を送るだけで精一杯

ま、それで引き下がってくれるのだから良いとして

何が悲しくて断ることのできない
許婚の顔を見て人生を悲観しなきゃならないの?

そんなの
覚悟を決める頃で良いじゃん


キモブタ変態野郎と決まったわけでもないのに

悲劇のヒロインを気取った私は
ソファに座った凱へと視線を戻した