ホテルのロビーを出ると
心地の良い海風が吹いてくる
所々ライトアップされて
雰囲気の良い庭のベンチに千色と二人ならどれだけ良かっただろう
苛々する気分そのままにドカっと腰を下ろせば
「隣、失礼します」
パンダが座ってきた
「あ、あの・・・」
忙しい毎日で千色とは二人きりの時間が取れてないのに
なんで・・・よりによってこんな女と
千色と二人なら、ただ此処に座ってるだけで幸せで
俺の千色不足は簡単に解消されるのに
千色のことだけを思い浮かべる俺が
返事をするはずもないのに
女は一方的に喋り続けていて
俺はそれに耳を貸すことなく
千色を想っていた
だが
「木村君は彼女さんはいますか?」
いい加減この女の声にも飽きてきた
「・・・いねぇ」
千色は彼女じゃなくて婚約者だ
「え、ほ、んとですか?
じゃ、じゃあ〜立候補しても?」
「あ゛?・・・」
こんなクソ女と話してると思うだけで
説明してやる気が失せてくる
「アタシ、ずっと木村君が好きだったんです
カッコいいし、Nightだし
背も高いし・・・声も素敵」
上っ面だけ見て好きだのなんだの言いやがって
胸の前で両手を組んでお願いポーズで俺を見上げる女を一瞥すると
湧き上がってくる怒りを吐き出した
「ウゼェ」
至近距離で放った怒気に
「ヒッ」
女は悲鳴を上げてよろけるようにベンチから落ちて芝生へと座り込んだ
「カッコいい?Nightだ?
背が高くて声も素敵?」
睨みつけると声も出ねぇ様子でガタガタと震えている
生憎、俺は怖がってたって
止めてやれるほど優しくねぇ
「お前に俺の何が分かる
お前に俺の人生請け負えんのか」
力任せに吐き出した声に
とうとう女は泣き出した
「俺は極道だ、お前にそれを受け止めるだけの覚悟があんのか?
人を殺めるかもしれねぇ
死ぬのが分かってても渦中に飛び込まなきゃなんねぇこともある
俺と一緒に居るだけで、その人生
陽の当たる場所とは言えなくなる
そんな覚悟がお前如きにあんのかっ」
side out