「木村の頭と姐さんはこちら・・・」



指定された席へと順番に腰を下ろしたけれど
向かい合う正面へ顔を上げる勇気が出ない


だって・・・この部屋

季節は初夏と呼ばれる頃なのに
ピンと張り詰めた空気は
冬の朝に似ている

喉が渇くほどの緊張感は白夜会一ノ組の組長を間近にした所為なのか

それとも森谷のこれまでの不義理の後ろめたさからくるものなのか

気付かないうちに俯いてしまったまま


挨拶が始まってしまった


木村のお義父さんが代表して
流れるように紹介を進め
それに合わせて横並びで頭を下げる

家長のみで進められる定石

単なる挨拶でさえ未経験の自分に
心の中でため息を吐いた

その間にも、お義父さんの話は続き
通達のお礼から婚約、そして
永遠の若頭襲名へと移った

全て終わったところで


「永劫、めでたいな」


向かいの中央から低い声がかかった


ん?永劫?下の名前で呼ぶなんて
実は仲良しだったりするのかな?

そんなことを思いながら顔を上げれば
黒茶の着物の着た堂本組長がお義父さんと顔を合わせて頷いていた


「あぁ、願いが一気に叶った」


そう答えたお義父さんは続けて


「皇樹《こうき》もだろ?」


そう言って堂本組長の隣に座る若頭へと視線を移した


その視線を追うようにそちらを向いた堂本組長は


「あぁ」
スッと目を細めて口元を緩めた

同じタイミングで


若頭とは逆隣に座る姐さんが


「皇さん」


小さく堂本組長を呼ぶ

その声に反応を見せて視線を合わせた二人は
僅かに口元を緩めて同時にこちらへ向いた


「・・・っ」


不躾にも甘い二人を凝視していた所為で

その視線を避けることが出来なかった