最低限の大義名分さえ果たせなくなっていた森谷組


これまで私が知らずにきた内情に
身体が震える


『死ねばいい』
そう言った千紗の鬼の様な形相が頭に残り

隣に座る永遠が握っている手だけが

私の精神を保ってくれるようで

しばらくその手に縋っていた



「東山さん」


お義父さんの言った言葉を思い出して
大吾を見れば


「東山の兄貴は元々は木村組《こちら》でお世話になってたんです

森谷組が道を外れるようになってからは
組長の動向を逐一報告する役目で
自分が千色お嬢のことを相談した時
既に兄貴は全てをご存知で
千色お嬢の許婚を解く為に自分を木村組長と繋いでくれたのも兄貴です」


「そうだったのね」


知らない内に動いてくれて
私の呪縛を解いてくれた東山さんと大吾


「自分は千色お嬢に
“付き人”という肩書きを頂いた身
お嬢の為に生き、お嬢の為に死ぬ覚悟は元より
お嬢の幸せを最優先にしたい
そう思っています」


そう言って口元を緩めた大吾に
ただただ頭が下がる


凱も同じことを口にしていたけれど
『私の幸せを最優先に』とは言わなかった


「大吾、ありがとう」


「俺からも、ありがとうな」


「勿体ねぇお言葉です」


「大吾、これからは
そこに俺も入れてもらうことになる」


「承知」


「とりあえずは
今の部屋はそのまま大吾が使え
俺と千色は一ノ組が用意してくれる部屋に移る」


「承知」


「今まで側近は置かなかったが
それも大吾に兼務してほしい」


「・・・自分で良いんですか?
力不足では・・・」


永遠の顔を見上げて不安な目をした大吾


「今朝、千色をこの家に迎えた時
大吾を先に歩かせただろ?
その時点で他の組員は理解したはずだ
意味、わかるよな?」


永遠の言葉にひとつ頷くと


「麻生大吾、この命
お二人の為に捧げます」


深々と頭を下げた