「・・・っ」


逃げなきゃと思うのに身体は動いてはくれなくて

金切り声を上げる千紗を
止めようとする両親と凱の動きが
コマ送りのように見える

こちらを凄い形相で睨む千紗が
髪留めを振り回しながら私を捉えた瞬間

目の前に大きな影が現れて
視界が遮られた


「・・・っ」


それが永遠の背中だと気付いた時には


「やめ、てー、離してよっ」


千紗は誰かに拘束されたようで

バタバタと音だけが聞こえて

現実感がなくて戸惑う


「千色、大丈夫か」


振り返った永遠の声に少しホッとして
フワフワした感覚から逃れるように抱きついた


「千色」


「永遠」


永遠の背中に寄せた頬は濡れていて
泣いてるんだと気がついた


「千色、手ぇ離せ
抱きしめらんねぇだろ」


永遠のお腹で力を入れている手を
大きな手がポンポンと叩くけれど
震えが止まらない身体は強張っていて力が抜けない


「「千色ちゃん大丈夫?」」

「千色お嬢!」


中腰の永遠としがみ付く私を剥がしてくれたのは
笙子さんと未来さんだった


「永遠」


離れた瞬間反転して
正面から抱きしめてくれた永遠

その隙に見えたのは
木村の家族しか居なくなった広い部屋だった


「千色、怖かったな」


帯の所為で高い位置で回された永遠の手がゆっくりと気分を落ち着かせてくれる


「ううん」


平気だって言いたいのに
何故か止まってくれそうもない涙に

それを諦めた