「笙子」


組長は部屋に入るなり名前を呼んで眉尻を下げた

何故か背筋が凍るような笑顔を向けた笙子さんは


「永さん、いらっしゃい」


やはり家主のようだった


「姐さん困ります。坂下を撒いて出かけて何かあったらどうするんですか」


名前しか呼ばなかった組長と違って後藤さんだけは心配事を口にした


「え〜、撒いてないわよ?
ついて来られなかっただけじゃない」


「笙子」


数回のやり取りで大体流れを掴んだけれど
この三人の間に入る勇気も無くて
ただ、広いと思っていたリビングに大人が五人も居るだけで

・・・圧迫感が凄い

そんな蚊帳の外だと気を緩ませた私に


「千色ちゃん、少し良いかな」


組長が名前を呼ぶもんだから

「はいっ」

勢いよく立ち上がった


「ブッ、千色ちゃんっ」

笙子さんが吹き出すのを視界の隅に入れながら

我が家のようにソファに座った組長の向かいに移動する


「笙子から聞いたか?」


「顔合わせのことでしょうか?」


「いや、永遠のことだ」


「あ・・・はい」


「此処は表向き東白の借り上げになってるが
実は一ノ組の持ち物でな」


「え」


「住人も一ノ組の表の稼業の系列やら
関係者だけしか住んでない」


「そうなんですね」

知らなかった


「今日一ノ組の親父からは
契約の二年間は千色ちゃんに此処で暮らして欲しいと頼まれた
ま、それは、若頭の婚約者のためってのが一番にあるからだが
永遠と婚約したなら一緒に暮らすのは構わないとも言われた
それで良いなら大吾がこの部屋を貰って
永遠と千色ちゃんは別の階へ引越すことにはなるが
千色ちゃんはどう思う?」


・・・えっと
結構重たい内容を聞かされた途端
それの返答まで迫られてますが・・・

色んなことが頭の中を駆け巡り
返事が出来ない私に


「そんなこと突然聞かれても
千色ちゃんだって返事に困るじゃないない」


笙子さんの助け船が出た