その夢の登場人物があまりにも意外すぎたので目が覚めてからしばらく起き上がれずに彼の事を考えてしまった。

今も、元気にしているのだろうか

もう一度、私は目を閉じる。

急な2つの坂道がちょうど交差するあの広場に植えられていた木は確か柏だったろうか。
ハンドルを握りしめ白い息を吐きながら自転車を押す。
プリーツのスカートの中に冷たい風を感じながら登りつめた先にはレンガ造りの校門があった。
次々と登校してくるほかの生徒と競い合うように自転車置場に自転車を置いて靴箱へと急ぐ。

フェースパウダーくらいしかつけていないほぼすっぴんの顔と適当にブローした肩くらいのボブの髪。
コシがないせいで時にははねていたかもしれない。
大して細くもない足に校章の入った紺のハイソックスを履いた足は冷たい風にあたったせいでひんやりと冷え切っていた。

登校はだいたいギリギリの時間だったから、朝練を終えて(きっと隠れて一服した後の)時間に余裕のある彼に声をかけられても私は上の空の返事を返しながら1限目の教科書を必死で用意していたに違いない。


「希緒、おい、きーお。きお。」

彼は意地の悪そうな低い声でよく、本当によく私の下の名前を呼んだ。
いつからだったろう、気がついた時には既に呼び捨てだった。
クラスの誰もそんな風に呼ばなかったのに。

「希緒!」

ビクッとして目を開けると、スーツを着た理人くんが私を見下ろしている。

「俺の鍵知らない?」

たった今起こされた私は働かない頭で「知らない。」と答えるのが精一杯だった。
理人くんは黙って部屋から出ていった。

どうやら二度寝をしてしまったらしい。

玄関のドアがバタンと勢いよく閉まる音がした。
時計を見ると8時40分だった。