「コーヒー?」

俺が、ポケットからハンカチを取り出して拭こうとすると、和奏さんがか細い声とともに手で俺を制した。

「大丈夫だから」

「え?」

「ちょっとぼーっと歩いてたら、つまずいちゃってコーヒーこぼしちゃったの」

和奏さんは、やっと顔を上げて言った。

和奏さん、あなたは嘘が下手だとは常々思ってましたけど。

俺のこと、バカにしてるとしか思えない下手さです。

でもこれがあなたのマジな対応なんですよね。
知ってます。

だからって、このまま嘘に乗ってあげることはできません。

こんなあなたを見過ごすなんて、俺にできるわけない。

「和奏さん、嘘が下手すぎます」

「え?」

少し驚いた顔。

「幼稚園児にも見破られますよ」

「え?そ、そんな?」

あからさまに動揺している。

わかり易すぎる。

て、そんなことはどうでもいい。
それより、これ何?

「で、何があったんですか?」

俺の知らないとこで、一体!?

「ほんとに何でもないのよ。わたしもすぐ戻るから、倉科くんも行って」

和奏さんはさっきよりかはマシな笑顔で俺に先にもどるように言ったけど。