「え?」

俺は彼女の予想外の言葉に動揺した。

「わたし、今が一番幸せなんだもん。仕事があって、大切な仲間がいて、好きな人と過ごす時間があって、今までの恋愛なんか嘘みたいに幸せなの」

和奏さんは、俯いていた顔を上げた。

「幸せなの」と言った彼女の顔はうっとりとした笑顔だった。

少しだけ、ほんの少しだけ俺は自惚れていた。
俺のことを意識してくれてるかもしれないと。

この笑顔が目に飛び込んできた瞬間、俺は自分が、自惚れていたことが恥ずかしくなった。
彼女の隣にいて、一体何を見てきたのだろう。

「でも、そうよね。倉科くんを共犯にするのはダメだよね。会社にバラすなり好きにして」

そんなの、俺は望んでいない。
バラしたからって、何になるの?

俺と同じだ。恐らく、和奏さんは諦めるなんて選択肢は持ち合わせていない。

俺なんてその瞳には1ミリも映っていなかったんだ。

和奏さんが立ち上がる。

「俺、バラすつもりなんてないです。共犯とかそんなことも思ってないですから。これからも何も変わら・・・」

まだ言い終わらないうちに和奏さんが遮った。

「ありがとう。でも、今までと同じ気持ちでってのは無理でしょ。わたしから部長に話して、チームは変えてもらうから」

え?何それ?和奏さん?

言いたいことがすぐそこまで出てるのに、言葉にならなかった。

和奏さんは、小さな声で俺に謝ると、部屋を出て行った。

「今までありがとう。ごめんなさい」

俺はまたしても、動けずに思考が停止した。