「誕生日だろ、今日。二十代最後の」

椎名さんは最後は面白がってる。

「あ、うん。そうだけど」

え?今日は和奏さんの誕生日?

俺は全然知らなかったことに少し落ち込んだ。

「忙しいし、わざわざ気遣わなくていいのに」

と言いつつ、嬉しそうに包みを両手で抱きしめている。

「予定ないなら、今夜うち来いよ。おまえも一緒に」

椎名さんは俺に顔を向けた。

「え?俺ですか?俺奥さんと面識ないし、ご迷惑じゃ」

びっくりして断ろうとしていると椎名さんが言った。

「イケメンに会えるって、きっと大喜びで歓迎してくれるぞ」

椎名さんに言われると素直に喜べないんだってば!

「ごめん、わたし予定あるんだ」

申し訳なさそうに、小声で和奏さんが呟いた。

それはもしかして?!ヤツと一緒に祝うから?

思わず和奏さんを見つめた。

「なんだよ、おまえそんなヤツいたの?だったら早く言えよな」

椎名さんそこまで斬り込まなくていいよ!

俺はなぜかドキドキしながら椎名さんに合図を送った。

「う、うん、まあ。そんないいもんじゃないけど」

否定しない。
結婚は否定したけど、恋人としては否定しないってことか。

「そっか。じゃあ、また今度な」

椎名さんは深追いせず、さらっとまとめた。
俺へのフォローも忘れずに。

「倉科、午後そんなキツイ仕事あんのか?カオに出てるぞ」

「え?何かあったっけ?ごめんわたし把握してない」

「いえ、大丈夫です!飯も食ったし、パワー満タンですから」

俺は心配そうな和奏さんを安心させるため、大げさに笑顔を作った。