数秒後、俺は彼女の声で現実に引き戻された。

「倉科くん、もしかして泣いてる?」

その言葉は、少し離れたところから俺の脳に飛んできた。

自然に目が開いた。

今までにないキョリに和奏さんの顔があった。
声が聞こえてきたキョリじゃない。

どうやら和奏さんは、俺の腕の中で手を伸ばして距離を取った。
そして俺の顔を見て、俺が泣いてることに驚いて、顔を覗き込んで、このキョリになったらしい。

「涙・・・」


言いながら、彼女は、俺の目元に指で触れた。

「わたしが泣かせてるの?」

驚きと少し申し訳無さげな声。

そうですよ。
俺は一体あんたにどれだけ泣かされるんだろう。

でもいつだって、俺の涙は否定されて。
「泣かなくていいって」言われて。

どうしたら、泣いていいかわからなくて。

俺は言葉に詰まって、何も答えなかった。