「初めはね、気遣ってメッセージを送ってくれたりしたの。『今日は元気そうでよかった』とか、『なんか悩んでるのか?』とか」

当時を思い出したのか、声のトーンが柔らかくなった。


「それだけで、わたしは元気をもらってた。それから、休憩スペースで話しかけてもらうようになって。誰もいない就業時間後に、少し時間を作ってくれて、悩みを聞いてもらったりした」


少しずつ二人のキョリは縮まっていったのか。


「終業後の話が長引いて、夕ごはんを一緒に食べるようになる頃には、仕事だけじゃなくて、プライベートの悩みも相談できるようになってた。もう恋愛なんてしないって決めてたのに、いつしか、わたしにとって彼との時間は仕事なんて関係ない、楽しい幸せな時間になっていった」

和奏さんはどんな表情で話してるんだろう。

本当は目を見てちゃんと聞かなきゃいけないと思うけど、彼の面影を追うような彼女の瞳には、映りたくなくて、俺はそっぽを向いたまま、聞いていた。