いつか見たベージュの小さなマンション。

まさか、恋人になる前にここに来ることになるとは、思わなかった。

まあ、相手にその気はないわけだし?
俺だけ気負っても仕方ないっていうか。

はぁ。そんなこと言っても、緊張するもんはする。

女の子の部屋入るのなんて、なんともなかったのに。
初めて彼女の部屋に入った時でさえ、別になんも思わなかったのに。

心臓の音聞かれやしないかと思うくらい、心拍数が上がってた。


「部屋片付けるから、ちょっとここでまってて」

ドアの前で、俺を待たせて、彼女は家の中に入っていった。

大丈夫だよな。
うん、俺がその気さえ起こさなければ、なんでもないんだし。
俺がオトコだってことはわかってると思うけど、そうゆうんじゃないんだから。
大丈夫、大丈夫、今までと同じキョリでいればきっと。
深夜だけど、二人きりだけど、彼女の部屋だけど。
俺は予想外の展開に動揺していたが、それをオモテに出さないように、「大丈夫」と呪文のように繰り返していた。

目を閉じて何回目かの大丈夫を心の中で唱えようとしたら、

「お待たせ。どうぞ」

ガチャっと勢いよく玄関扉が開いた。

「うわっ!」

俺はいきなり開いたドアに、おでこをぶつけそうになって、後ずさりした。