「で?おまえの中で、何か変わったのか?」

自画自賛のチャーハンを口へ運びながら、修二が俺に質問する。

さっき、修二の作ってくれたご飯ができて、俺たちは少し遅めの夕食を始めた。

落ち着いて順を追って、俺は二人に今日のことを話した。

紹介が遅れたけど、というか想像つくと思うけど、修二も俺の幼なじみだ。
名前は真田修二(さなだ しゅうじ)
職業は、2年目の新米検事だったりする。
俺たちの中で一番情に熱くて、面倒見が良くて、人当たりもいい、そして俺が女だったら惚れる自信のあるイケメンだ。

ハルもいわゆるイケメンの部類には入ると思うけど、ハルはどちらかというと、クールビューティで知的な雰囲気漂ってるし、話しかけやすいタイプではない。知る人ぞ知る的な感じなのに対して、修二は誰が見ても認めざるを得ないイイ男だ。しかも優しいから話しかけやすいし。と俺は思う。

ちょっと椎名さんに似てるとこあるかもな。顔の作りは違うけど、イケメンなとことか。面倒見いいところとか。

そんな修二は俺のことも、ハルのことも、きっとほかの友人知人も何かあったら放ってなんておけないんだろうな。

仕事では被害者と親身に向き合ってるんだろう。
想像がつく。

「変わったって?」

俺が首を傾げていると

「例えば、社内でそんなことをする彼女を信じられないから、もう仕事できないとか、幻滅して嫌いになるとか、俄然燃えて来た、絶対奪ってやる!略奪愛に目覚めるとか」

横でハルはうんうんと頷きなら、サラダを頬張っている。

絶対何にも考えてないだろ!

俺は今言われたことを振り返って考えてみる。
答えはすぐに現れた。

「何にも変わってない。・・・と思う」

「そうだろうな」

修二はまるで俺の答えを予測していたかのように、頷いた。

なんだよ、わかってたみたいにエラそうに。
俺が悪態をつこうとするのを、修二が遮る。

「だからさ、何も変わってないんだよ。目の前が真っ暗になって思考が止まって、体が動かなくなったとしても。ただフラれた経験のないおまえは、フラれたと勘違いしただけだ」

「勘違い?」

「ないだろ?フラれたこと」

俺は黙って頷いた。

「いいんだって。今までの恋愛が告られ率100%、別れる時はケンカ別れか自然消滅だっただけなんだから。だいたいおまえみたいにわがままも許せちゃう可愛い王子さまがフラれるわけないじゃん?」

な?と俺に微笑む。

なんか、ひっかかるけど、前半は事実だから言い返せない。

そしてひどく真面目なトーンで俺を諭す。

「いいか、ごちゃ混ぜにするな。彼女が誰かと抱き合ってる現場を見たことは、イコールおまえがフラれたことにはならない。だから、落ち込む必要もないし、諦める必要もない。
わかったか?」

「うん」

不思議だ、ここに来たときは、目の前に闇しか広がっていなかった気がするのに。
今言った修二の言葉が俺の胸にストンと落ちて来た。

本当に何も変わっていないことに気づいた。


そして修二は、真剣な顔で続けた。

「気になるなら、情報を集めろ。どんなに憶測を立てても、真実は一つしかないんだ」

「真実は一つ・・・」

「集め方がわからなかったら、いつでも俺が教える」

「修二、ありがと」

それからは、俺もハルも修二もいつもの調子で話し込んだ。


俺のココロの闇がすっかり晴れたころ、気がつけば外の雨音が止んでいた。