そんなことがあったんだ。
この二人は恋人にこそならなかったけど、やはり他が入り込めない何かを感じさせる。
いや、実際あるんだ。

一体、和奏さんは泣きながら何を言ったんだろう。
そんな和奏さんの頼みをなんで椎名さんは聞かなかった?
きっと特別な存在だったはずなのに。

「それは、わたしの想いっていうか、勝手にしたことだし」

「そう、俺のことを思って、勝手にしたことだ。心配だったんだろ。これ以上見てられなくて、なんとかしたいと思ったんだろ」

「そ、そうよ!まっすぐなあんたの思いを一番そばで見てきたから。応援したのは傷つく姿が見たかったからじゃないもの。可能性ゼロを追いかけるあんたを見てるなんてできなかった!咲葉じゃなかったら!別にもう会えないとか、口聞かないとかそんなこと一言も言ってないのに!一つのことさえ望まなかったらって!」

椎名さんの言葉に和奏さんが答える。
息もつかせぬ勢いで喋りきった。
当時を思い出したからなのか、少し涙声で、怒っているようだ。

「おまえはどう思ってるかわからないけど、あのとき俺がおまえの言うこと聞かなかったのは、途中でやめることなんかできないプライドとか、信念とかそんなことじゃない」

椎名さんも少し強い口調になった。

「選択肢を出せなかっただけだ」