(暗い部屋で良かった)

「なぜあれが不吉とされているのか、不思議に思ったな」
「そうか……。あ~クソッ、俺も一度でいいから聴いてみてぇなぁ!」

 本気で悔しそうにグリスノートは天を仰いだ。

 ――この人は、私がセイレーンだと知ったらどうするのだろう。
 そんなに歌が好きなら、もし今私が歌ったら、この縄も解いてくれるだろうか……。だが。

「これも全部、あの銀のセイレーンのせいだ」

 その憎々し気な声に危うく肩が跳ねそうになる。

「どれほどの美女か知らねぇが、またこの世界に現れたってんなら俺のこの手で殺してやりてぇぜ」

 ぐっと握り潰すように拳を握った彼を見て、顏の熱が一気に引いた。

 ――絶対に、この人の前では歌えない。