と、セリーンがグリスノートを睨み上げた。

「それよりつい先ほど妙な声が聞こえたが?」
「あ?」
「歌うような声だ。噂の幽霊船ではないか?」

 彼の興味を逸らすためだとすぐにわかった。

「歌うような声……?」

 訝しげに眉を寄せた彼を見て私は畳みかけるように後を続ける。

「確かに聞こえました! 実は昨日の夜も同じ綺麗な歌声を聞いて、それで外に」
「てめぇら、歌声を知ってんのか?」
「え?」

 唐突に問われて言葉に詰まる。
 その顔は、先ほどまでの人を小馬鹿にしたようなものではなく真剣そのものだ。

「歌声を一度でも聞いたことがあるのかって訊いてんだ」

 鬼気迫る形相で一歩こちらに近付いてきたグリスノートにぎくりとする。