だんだんとその姿が遠のいていき、手を下ろしかけたときだ。
「オルタード……!」
リディが身を乗り出し上ずった声を上げた。
よく見れば確かに人垣の中に小さくオルタードさんの姿があった。
「オルタードーー! ありがとー! 兄貴のことは私に任せといてーー!!」
その甲高い声は泣くのを必死にこらえているように聞こえた。でも彼女は笑顔だった。
オルタードさんは杖をつきただじっとこちらを見つめていたが、ふと傍らに気配を感じると恭しく胸に手を当て頭を下げた。セリーンが彼の方を見て綺麗に微笑んでいた。
かつてお嬢様と執事だったふたりの姿が一瞬、見えた気がした。
岩山に遮られ皆の姿が見えなくなり船が入り江を抜けると、いよいよ目の前には大海原が広がった。
「そういえばカノン、今回は船酔いは平気そうか?」
「えっ! あ、あぁ~、平気……だといいな」
船酔いのことなどすっかり忘れていた。今度は半月ほどずっと船の上なのだ。そう思ったら急に胃の辺りがもやもやしだして、思いっきり潮風を吸い込む。
「え、カノンって船酔いするの?」
リディに訊かれて苦笑する。
「うん。この間初めて船に乗ったらね。でももう慣れたと思いたいんだけど」
「私もこれが初めてだけど、私も船酔いするのかしら……きゃ!?」
そのとき、急な強い風に船体がぐらりと揺れた。
私はすぐ傍らにいたセリーンが支えてくれたおかげで転ばずに済んだけれど、リディは――。



