My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 5


 だんだんとその姿が遠のいていき、手を下ろしかけたときだ。

「オルタード……!」

 リディが身を乗り出し上ずった声を上げた。
 よく見れば確かに人垣の中に小さくオルタードさんの姿があった。

「オルタードーー! ありがとー! 兄貴のことは私に任せといてーー!!」

 その甲高い声は泣くのを必死にこらえているように聞こえた。でも彼女は笑顔だった。
 オルタードさんは杖をつきただじっとこちらを見つめていたが、ふと傍らに気配を感じると恭しく胸に手を当て頭を下げた。セリーンが彼の方を見て綺麗に微笑んでいた。
 かつてお嬢様と執事だったふたりの姿が一瞬、見えた気がした。

 岩山に遮られ皆の姿が見えなくなり船が入り江を抜けると、いよいよ目の前には大海原が広がった。

「そういえばカノン、今回は船酔いは平気そうか?」
「えっ! あ、あぁ~、平気……だといいな」

 船酔いのことなどすっかり忘れていた。今度は半月ほどずっと船の上なのだ。そう思ったら急に胃の辺りがもやもやしだして、思いっきり潮風を吸い込む。

「え、カノンって船酔いするの?」

 リディに訊かれて苦笑する。

「うん。この間初めて船に乗ったらね。でももう慣れたと思いたいんだけど」
「私もこれが初めてだけど、私も船酔いするのかしら……きゃ!?」

 そのとき、急な強い風に船体がぐらりと揺れた。
 私はすぐ傍らにいたセリーンが支えてくれたおかげで転ばずに済んだけれど、リディは――。