「なんだそれ」
少し遅れて船に乗り込んだ私に不機嫌そうな声が掛かる。ラグとセリーンが私の手元を見ていた。
「わからないけどグリスノートに渡してくれって、えっ!?」
「貸せ、オレが渡してくる」
「え、ちょっと!」
私の手から奪うように持って行ってしまったラグを慌てて追いかける。
甲板の中央付近にいたグリスノートは近づいてくる私たちにすぐに気づいたようだ。
「これを預かった」
「あ?」
目の前にずいと差し出されたそれを見てグリスノートは眉を寄せた。
「あの、エスノさんが渡してくれって」
「エスノおばちゃんが?」
言って彼はそれを受け取った。
「今日のためにみんなで作ったって」
私が言い終わらないうちに、バサリとグリスノートはそれを広げてみせた。
柔らかな風にたなびいたそれを目にして、彼の瞳が大きく揺れるのを見た。
それは旗だった。あの海賊旗ではない。
スカイブルーに翼を広げた白い鳥のシンボル。
「グレイス……?」
思わず声が出ていた。
グリスノートがつんのめるようにして船縁の方へと駆けていく。そしてその旗を高く掲げ、彼は大きな声で叫んだ。
「最っ高な旗をありがとなー! 絶対にいい話を持ち帰るから楽しみにしてろよー!!」
わーっと大きな歓声が返ってきて、それにまた笑顔で答えているグリスノートを見てつい顔が綻んでしまう。
(この町の“希望”かぁ)
「見惚れてる?」
「へ?」
いつの間にかリディがにんまりと笑って私を覗き込んでいた。
そしてこそっと小さな声で続けた。
「いつでも本当のお嫁さんになっていいんだからね?」
「え、」
リディはにっこり笑ってからパタパタとグリスノートの方へ駆けて行ってしまった。



