「!」

 彼が私を見下ろし、その場にいた人たち全員の視線が一斉に集まってきてびくっと肩をすくめる。
 するとグリスノートはさも当然のように答えた。

「そりゃ結婚してすぐだからな、いきなり離れるなんて寂しいよなぁ、カノン!」
「えっ」

 船の上から手を振られて思わず固まっていると、いたるところからヒューっと歓声が上がった。
 すぐ横からは大きな舌打ち。

「まぁ、カノンだけ置いていくわけにもいかんしな」

 セリーンがそう溜息を吐いた。
 ……そうだ。本来ならお嫁さんは町に残らなければならないのだ。
 私は引きつりまくった笑顔で、とりあえず手を振り返しておいた。

「なら、リディアンちゃんの言う通り、問題ないんでは?」
「……」
「船長が、嫁さんもリディアンちゃんも守ればいいだけの話じゃないっスか。俺たちも美味い食事は大歓迎っス。なぁ?」

 その問いかけに近くにいた仲間たちが一斉に「おーっ!」と嬉しそうな声を上げた。