「あ……」

 オルタードさんの出した条件が全部リディのことを想ってのことだということ。
 でもそれを話してしまったら彼女はどう思うだろう……。
 また沈黙が訪れて、私もつい溜息が漏れてしまった。

「セイレーンの秘境がどこにあるかわかればなぁ」

 エルネストさんの言う通りこの近くなのだとしたら、グリスノートもそこまで長旅じゃなくて済む。リディを想うオルタードさんの条件もきっと緩むはずだ。
 私はぼやきながらラグの手元に視線を移す。

「それ見せてもらっていい? 他に何か手がかりないかな」

 ラグからその本……エルネストさんの作曲ノートを受け取り、再び最後のページを開く。
「埴生の宿」と「銀のセイレーンのお気に入り」。私が読めるのはそのふたつだけだ。
 そのふたつの文字をじっと見ていて、ふと気づく。

「エルネストさん、なんで日本語が書けるんだろう」