「だがこの町ではもう、カノンはグリスノートの嫁ということになっている」

 セリーンの言葉にうっと低い声が出てしまう。

「そう、だよね……」

 と、ラグが隣でパタンと本を閉じた。

「色々と手がかりは掴めたんだ。さっさとこの町を出るぞ」
「どうやって? 船もないのに」
「それに次はどこへ行くつもりだ。もうエクロッグに行く必要もなくなっただろう」

 立て続けに訊かれてラグは不機嫌そうに黙った。その頭にブゥが乗るのを見て、少し癒される。

「……グリスノートがね、夢が叶いそうだって言ったの」
「夢?」

 私は頷いて続ける。

「ほら、グリスノートの夢って、この町を出てセイレーンの秘境を捜しにいくことでしょ?」